夢のオアシス 敦煌 – 時空を超えた至宝の世界へ
中国北西部の果てしない砂漠の海、金色の砂丘が波紋のように広がるその中心に、現実と幻想が交差する聖地があります。ここ敦煌は、二千年にわたり旅人たちの魂を揺さぶり続ける「シルクロードの宝石箱」なのです。
紀元366年、楽僔(らくそん)という僧がこの地を彷徨っていた時のこと。夕陽が砂漠を琥珀色に染める中、彼は崖肌に浮かぶ千体の黄金仏を目撃します。感動に打ち震えた彼がノミを握り最初の洞窟を掘り始めてから、やがて735窟もの莫高窟(ばっこうくつ)が誕生。仏教美術の最高峰となるこの遺産は、まさに「砂漠のルーブル」と呼ぶにふさわしい輝きを放っています。
敦煌の真髄は、単なる遺跡の規模ではなく、東西文明が融合した「人類初の国際都市」としての歴史にあります。ペルシアの絨毯と中国絹が取引され、インドから伝わった仏典が漢訳され、ギリシャの写実技法が中国の水墨画と結びつく——。鳴沙山(めいさざん)の影で休む隊商たちの雑踏の中、世界初のグローバル文化が生まれていたのです。
洞窟を巡れば、壁画が千年の時を超えて語りかけます。第57窟では天女の薄絹が永遠に舞い、第323窟では隊商のラクダが色あせた碧色の道を歩む。ヘレニズムの天使と唐の貴婦人が並び、ソグド人の商人がウイグル文字で帳簿をつける——。まさに「人類の文化DNA」がここに凝縮されています。
